安倍晋三首相(62)が中国が掲げる現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」への協力に前向きな姿勢を示した。どうやら首相官邸は、今年から来年にかけて日中関係を本格的に好転させる構えのようだ。
ただ、日中をめぐる状況は、東シナ海情勢や、12人の日本人拘束などで明るい材料はない。にもかかわらず、関係改善への意欲を持つのは、前のめりという印象を否めない。
「洋の東西、そしてその間にある多様な地域を結びつけるポテンシャルを持った構想だ」
安倍首相は6月5日、日経新聞が主催する国際交流会議「アジアの未来」で一帯一路をこう評価した。首相自身がここまで踏み込んだ発言をしたのは初めてだ。
安倍首相は「インフラについては国際社会で広く共有されている考え方がある」と指摘し、条件≠提示することを忘れなかった。
その条件とは「透明性で公正な調達によって整備されること」「プロジェクトに経済性があり、借り入れをして整備する国にとって、債務が返済可能で、財政の健全性が損なわれないこと」の2つだ。
安倍首相はこうも話した。
「国際社会の共通の考え方を十分に取り入れることで、『一帯一路』の構想は、環太平洋の自由で公正な経済圏に、良質な形で融合していく、そして、地域と世界の平和と繁栄に貢献していくことを期待する。日本としては、こうした観点からの協力をしていきたいと考える」
× × ×
中国がこれらの“条件”をクリアするのは容易ではない。
中国は、返済能力のない国のインフラ整備に巨額の資金を投じてきた。支援を受けた国は高率の利払い負担を背負うことになり、結果的に権益の売却で対応を迫られている。その顛末は、スリランカ南部のハンバントタの例をみればよくわかる。
スリランカ政府は2008年に中国の支援を得て、港湾整備に乗り出したものの、昨年12月、ハンバントタ港を所管するスリランカ国営企業の株式の80%を中国国有企業に99年間貸与することで、中国側と基本合意した。
港周辺では、中国企業に経済特区を整備させることも決まっており、一帯一路のモデル事業とみられていたという。しかし、住民らの強い反発で計画は調印できず、宙に浮いている。
中国が条件をクリアするのは難しいとはいえ、政治は「言霊」の世界である。大抵の場合、発言には相応の行為や行動が伴うとみていい。
そう考えると、安倍首相の発言は、日本が近い将来、プロジェクトベースで一帯一路に協力する形を模索することを示唆するものではないか。
どこかの段階で開催する日中首脳会談で、中国の一帯一路と、日本が東南アジア諸国連合(ASEAN)などを中心に重視する「連結性の強化」の2つの構想は競合せず、両立できるものだという考え方を共有することがあるかもしれない。
7月にドイツ・ハンブルクで開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議にあわせて開かれる日中首脳会談でテーマとして上がる可能性も排除できない。
× × ×
安倍首相の発言のタイミングは計算されたものだろう。政治家は誰でもそうだが、講演の聴衆の種類、テーマ、タイミングなどあらゆる要素を考慮して講演内容を練るものだ。
今回の状況をみれば、一帯一路に関する安倍首相のメッセージが誰に向けられたかは明確だ。まず、日本の経済界だ。
自民党の二階俊博幹事長(78)は5月14、15両日に北京で開かれた「一帯一路・国際協力フォーラム」に出席した。
二階氏は、訪中予定を発表した4月25日の記者会見で「一帯一路に対しては経済界の関心も高い。会議の参加を通じて、意見交換や情報の収集等を行うべく、今回は榊原経団連会長にも副団長としてご参加いただくことにしている」と述べていた。
日本の経済界では「一帯一路という世界を巻き込んだ大規模インフラ事業を目の当たりにして、日中の政治が冷え込んでいるからといって、日本の企業が関与できないのはいかがなものか」という不満がくすぶっているという。
http://www.sankei.com/premium/news/170613/prm1706130004-n1.html
(>>2以降に続く)
ただ、日中をめぐる状況は、東シナ海情勢や、12人の日本人拘束などで明るい材料はない。にもかかわらず、関係改善への意欲を持つのは、前のめりという印象を否めない。
「洋の東西、そしてその間にある多様な地域を結びつけるポテンシャルを持った構想だ」
安倍首相は6月5日、日経新聞が主催する国際交流会議「アジアの未来」で一帯一路をこう評価した。首相自身がここまで踏み込んだ発言をしたのは初めてだ。
安倍首相は「インフラについては国際社会で広く共有されている考え方がある」と指摘し、条件≠提示することを忘れなかった。
その条件とは「透明性で公正な調達によって整備されること」「プロジェクトに経済性があり、借り入れをして整備する国にとって、債務が返済可能で、財政の健全性が損なわれないこと」の2つだ。
安倍首相はこうも話した。
「国際社会の共通の考え方を十分に取り入れることで、『一帯一路』の構想は、環太平洋の自由で公正な経済圏に、良質な形で融合していく、そして、地域と世界の平和と繁栄に貢献していくことを期待する。日本としては、こうした観点からの協力をしていきたいと考える」
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中国がこれらの“条件”をクリアするのは容易ではない。
中国は、返済能力のない国のインフラ整備に巨額の資金を投じてきた。支援を受けた国は高率の利払い負担を背負うことになり、結果的に権益の売却で対応を迫られている。その顛末は、スリランカ南部のハンバントタの例をみればよくわかる。
スリランカ政府は2008年に中国の支援を得て、港湾整備に乗り出したものの、昨年12月、ハンバントタ港を所管するスリランカ国営企業の株式の80%を中国国有企業に99年間貸与することで、中国側と基本合意した。
港周辺では、中国企業に経済特区を整備させることも決まっており、一帯一路のモデル事業とみられていたという。しかし、住民らの強い反発で計画は調印できず、宙に浮いている。
中国が条件をクリアするのは難しいとはいえ、政治は「言霊」の世界である。大抵の場合、発言には相応の行為や行動が伴うとみていい。
そう考えると、安倍首相の発言は、日本が近い将来、プロジェクトベースで一帯一路に協力する形を模索することを示唆するものではないか。
どこかの段階で開催する日中首脳会談で、中国の一帯一路と、日本が東南アジア諸国連合(ASEAN)などを中心に重視する「連結性の強化」の2つの構想は競合せず、両立できるものだという考え方を共有することがあるかもしれない。
7月にドイツ・ハンブルクで開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議にあわせて開かれる日中首脳会談でテーマとして上がる可能性も排除できない。
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安倍首相の発言のタイミングは計算されたものだろう。政治家は誰でもそうだが、講演の聴衆の種類、テーマ、タイミングなどあらゆる要素を考慮して講演内容を練るものだ。
今回の状況をみれば、一帯一路に関する安倍首相のメッセージが誰に向けられたかは明確だ。まず、日本の経済界だ。
自民党の二階俊博幹事長(78)は5月14、15両日に北京で開かれた「一帯一路・国際協力フォーラム」に出席した。
二階氏は、訪中予定を発表した4月25日の記者会見で「一帯一路に対しては経済界の関心も高い。会議の参加を通じて、意見交換や情報の収集等を行うべく、今回は榊原経団連会長にも副団長としてご参加いただくことにしている」と述べていた。
日本の経済界では「一帯一路という世界を巻き込んだ大規模インフラ事業を目の当たりにして、日中の政治が冷え込んでいるからといって、日本の企業が関与できないのはいかがなものか」という不満がくすぶっているという。
http://www.sankei.com/premium/news/170613/prm1706130004-n1.html
(>>2以降に続く)